友美さんがしれっと訊く。

「あら、彼女はいないの?」

「いません」

「それは切ない!なぁ、童貞クン!」

とか言いながらニヤけてるおっさんに、平石はイヤな顔もせずニコニコと笑っている。

「ええ。正直彼女は欲しいです。恋愛って人格形成上、必要な勉強だと思うんです」

「ほう…いい事言うね!若いのに、しっかりしてるなぁ!」

父ちゃんが何度もうなずく。

「でも、僕モテないんです。性格が堅いし、滝山君と違ってビジュアルが完全に暗いので」

まぁ、性格が堅いのは正解かも。


「そんな、ビジュアルなんてもんはなぁ!…ん?」

そう言って、父ちゃんはおもむろに平石をジロジロ見回す。

「んんんっ…?」

「どうされたんですか?おじさん」


それから父ちゃんは急に無言になり、豚汁とおにぎりをすごい勢いでガツガツとかき込んだ。

「ごちそうさん!じゃ、平石君。食べ終わったら俺んトコ来な」

立ち上がった父ちゃんは、それだけ言うとバタバタと外に出て行った。


「えーっと…?どういうことなんでしょうか?」

不思議そうな表情でオレを見る平石。

「ま、後で分かるから。ね?友美さん」

「ええ、そうね!とりあえず食べちゃいましょう」


だいたいの察しはつくオレと友美さんは、顔を見合わせてニヤッと笑った。