覚えてますか?
すっかり忘れられてると思ってました。
携帯の中の、私の存在。
音と声は聞こえるから、今日一日滝山くんに何が起こっているのかは、だいたい分かるんだけど。
見たかったなぁ…平石くんの家のすごさ。
「じゃ、豚汁できたら呼ぶわね!」
「友美さん、頼むね!」
「よろしくお願いします」
平石君のお願いで、さっそく今日ご飯作ってもらうみたい。
豚汁かぁ、いいなぁ~。
食べたいなぁ…お母さんの料理…
「ここ、オレの部屋。狭いけどどうぞ」
滝山くんの声。
カチャ
ドアが開く音。
「……」
なに?この沈黙。
「滝山君」
あ、平石君の声。
「え、やっぱ狭いよね。ハハッ!」
「そういう問題じゃありません。部屋、掃除した方がいいと思います」
お!平石君がいいこと言った!!
「そうかなぁ?」
ガシャガシャと音が聞こえる。
この音は、たぶん床にある物をかき寄せて、平石君が座る場所を作ってるだけだな。
「すみません。あつかましいお願いして」
「いいよ!友美さんノリノリっぽいし!」
滝山くんはポケットから携帯を出して、テーブルの上に置いてくれたみたい。
声がハッキリ聞こえるようになった。
「楽しみです。滝山君のお母さんの手料理」
「ああ、友美さんはお母さんじゃないよ」
「えっ?」
ええっ!?
平石君とかぶった。
私、そんな話聞いてない。



