待ち受けカノジョ。

それから奈緒は、ポツリポツリと話し始めた。


両親が別居していること。

お父さんのDVがひどかったこと。

お父さんから逃げるために何回か引っ越したけど、何故かすぐ見つかってしまうこと。


「なんで離婚しないんだろ?」

奈緒がため息をつく。

「お母さんは『奈緒のためよ』って言うんだけど、私はいっその事離婚してくれた方がいい…」


涙ぐむの奈緒の話を、オレはだまって聞き続けた。


「お母さんだって女だもん…幸せになってもらいたいのに」

ぽろっと涙が落ちる。

「私なんて、いなくなった方がいいのかも…」

「違うよ」

オレは口を開いた。

「えっ?」

「それは違う。奈緒の幸せがおばさんの幸せなんだと思う」


オレは忘れてなんかいない。


奈緒の手を握りながら流した、おばさんの涙を。


「子供にいなくなってほしい親なんかいないよ。おばさんは奈緒が元気になるのを必死で願ってる」

「うっ、うっ…」

泣きじゃくる奈緒。


「だから、いなくなった方がいいなんて、そんなこと…もう絶対思うなよ」


その時、オレは気付いた。


意識がないはずの奈緒の体のぴったりと閉じた瞼から

一筋の涙が頬を伝わるのを。



その日、結局森田サンは来なかった。