「た、滝山…です」

締め付けられているように苦しい首から、やっと声を搾り出す。


「ああ、あなたね。奈緒とぶつかった子は」

女性が力なくゆらっと立ち上がる。

「奈緒の母です」

落ち着いた低い声は、爆発しそうな怒りを抑えているように感じる。


おばさんの顔をまともに見ることができない。

「あっ、えっと、本当に…」


どんな言葉を使ってあやまればいいんだろう。

この状態で『すみません』じゃ軽すぎる。


「ほ、本当に申し訳…!」

「あなたも痛いでしょう?」

「えっ?」

思いがけない優しい言葉に、顔を上げてしまった。


「ごめんなさいね。奈緒の不注意であなたを巻き込んでしまって。痛いでしょ?頭の傷。」

おばさんはオレを心配そうに見つめている。


「あ、いいえ、僕は大丈夫です。それより、避けれなかった僕が悪いんです。すみません!!」

気をつけの体制から思いっきり頭を深く下げると、おばさんはフッと少しだけ笑った。


「奈緒の容態は、安定してるのよ。ただ意識が戻らないだけで」


そうだろうな…

奈緒の意識は、オレの携帯の中にあるんだから。