「ななななんで携帯の中にいるの!?」

混乱と動揺で慌てふためくオレ。


「そんなの私が訊きたいよ!滝山くんとぶつかった後、気がついたらもうここにいたんだもん!」

奈緒も何が何だか分からないようで、不安そうな表情でオレを見る。


携帯のディスプレイを凝視した。


携帯の中の奈緒は、さっきから自由に動いているし、オレとの会話もちゃんと成立している。


何コレ?どういう事?


「で、でもさ、今、集中治療室にいるハズじゃ…」

「えっ!集中治療室?私、そんなに悪いの!?」

奈緒が驚いた表情でディスプレイに貼りつく。


「看護師さんが…『意識が戻らない』って」

一気に青ざめる奈緒。

「えっ?じゃあもしかして、ぶつかった拍子に意識だけ携帯の中に入っちゃったって事?」

「そうなることになるのかなぁ…夢じゃなければ」

オレだってよく分かんないけど。


「なんで…?」

奈緒の目に、うるうると涙がにじむ。

「なんでこんな事になっちゃったの?」

うっうっとこらえていた泣き声が、うわーん!と子供のような大きい声に変わった。


「ちょ、ちょっとっ!」

携帯のバイブレーターがハデにブルブル振動している。

「そんなデカイ声で泣くなよ!聞こえるって!ここ病院なんだから!」

「あっ、ごめ…うっ、ごめんなさい、ひっく」

オレは携帯の画面をクルッと回して部屋の方に向けた。

「見える?」

「ホントだ。病院だ。ごめんなさい、滝山くんまで巻き込ん…うっ、迷惑かけ…うっ、うわ――ん!!」

あーもう声がデカい!