ひゅぅぅぅぅぅ―――――

ひゅぅぅぅぅぅ―――――


…これは?

なんの音だろう。


ひゅぅぅぅぅぅ―――――

…風の音?


ふっと気が付くと、一面にピンク色の景色が広がっていた。

上にはピンクの空。

下にはピンクの雲。

それ以外には何もない。

目の前にどこまでも果てしなく続いている。


…ここは?


ひゅぅぅぅぅぅ―――――


なんでこんな所を、ものすごいスピードで飛んでるんだろう?

っていうか、私の体…


えっ!?


そこには体も何もなかった。

ただ、あるのは…

輝く光の玉。

これ、私なの!?


ひゅぅぅぅぅぅ―――――

遥か向こうに雲の壁が見えてきた。

入道雲みたいに、上に向かってモクモクと立ちのぼっている。

わかった…

私、たぶん魂だけになったんだ。

あの雲の壁を越えたら、天国なのかも。


びゅぅぅぅぅぅ―――――

吸い寄せられるように、さらに加速する。


死んだ人はみんな、こんなふうに魂だけになって天国へ集合するのかな。


人間って不思議。

心を支配するのは、魂。

体を支配するのは…脳だろうか。

この2つがうまく合わさった時に、ひとりの“人間”が生まれるのかもしれない。

私もまた、別の新しい体に宿って、生まれ変わって、名前をもらって、奈緒とは違う人生を歩むんだろうな。

もちろん、生れ落ちる時には『奈緒』っていう存在だったのも、きれいに忘れてしまうんだろうけど。


「…おっ…」

生まれ変わったら、

「おっ…なお…」

生まれ変わっても、

「なおっ…」

大切な人のそばにいたい。


びゅぅぅぅぅぅ―――――

びゅぅぅぅぅぅ―――――



「おっ…!なおっ!」

さっきから聞こえるこの声は、

…誰?


この気持ちは何だろう?

嬉しいような。

苦しいような。

せつないような。

懐かしいような。


ああ…そうだ。

この声の人が、私の大切な…






「戻って来い!奈緒!!」


滝山くん!!


彼の名前を呼んだ瞬間、私は急降下して雲の中に落ちた。