待ち受けカノジョ。

「父ちゃん、バレてるよ?お母さんにちょっと未練あるのも、友美さんの事一番大切に思ってるのも」

「……」

何も反論できない父ちゃんは、口を結んで下を向いている。

「オレ、友美さんの事、母親だと思ってるんだよ」

「だからって、今さら結婚とか…。だいたい、してもしなくても同じだろーが」

モゴモゴと動き出す父ちゃんの口。

「同じだったら、してよ!『お母さん』って呼ばせてほしいんだ…ね?友美さん」

急に振り返ったオレに驚いて、サッと柱の陰に隠れた友美さん。

さっきからそこにいたのは気付いてたよ。

「ね?『お母さん』って呼んでもいいでしょ?」

「ダメ」

やっと陰から出てきた友美さんが、真剣な表情で首を振りながらオレに言った。

「それはダメだよ。アンタが『お母さん』って呼んでいいのは、順子だけ」

だよね。

友美さんなら、そう言うと思った。

「じゃ、『母ちゃん』。母ちゃんなら問題ないでしょ?」

父ちゃんと友美さんが顔を見合わせて、プッ!と吹いた。

「父ちゃんみたいなキョーレツな男と付き合えるのは、友美さんだけだよ。父ちゃんのこと、よろしくお願いします」

オレは友美さんに深々と頭を下げた。

キョーレツな男が、苦笑いしながら頭をボリボリ掻く。

「あのよぉ~、オマエ、大人のことに口出すんじゃねーよ!くそガキのくせに」

父ちゃんがそう言うのも分かってた。

「そうだよ。オレはガキだ、子供だよ」

今なら胸を張って言えるよ。

「父ちゃんと友美さん、お母さんと義明おじさん、4人の子供だ」

オレはたくさんの幸せをもらった。

あとは自分で幸せをつかんでいける。

今度は4人がちゃんと幸せになる番だ。

「子供なんだから、これからも遠慮なく言わせてもらうよ!じゃ、おやすみ」

リビングから出て行こうとするオレを父ちゃんが呼び止めた。

「順平!」

振り返ったオレの目に映ったのは、友美さんと父ちゃんの笑顔。

「オマエがいいヤツに育って良かったよ。オマエが選んだ店の内装も、あれで正解だ。ありがとうな…」

父ちゃんの珍しい言葉に、オレは照れながらうなずいた。

「って、もうこんなクサい事2度と言わねぇからなっ!」

真っ赤になって叫ぶ父ちゃんにクスクス笑いながら、リビングのドアを閉める。