遠くに聞こえる、波の繰り返す音。

アイスミルクティーの氷はすっかり溶けて、ただの水になってしまっていた。


「すまなかったね」

再び現れたおじさんがオレに頭を下げる。


「いいえ…お母さん、大丈夫ですか?」

「ああ、薬を飲ませたから大丈夫だよ」


…薬?


「君は、順平君だよね?」

白い髪のおじさんは、紳士的な感じで穏やかに微笑む。


「あ、はい…。初めまして」

「私はね、順平君に会ったことがあるんだよ。まだ君が赤ちゃんの頃だから、覚えてないだろうがね」


渡辺義明と名のったおじさんは、オレにアイスミルクティーのおかわりを作ってくれた。

もちろん、それはお母さんの味じゃなかった。


「これは?」

おじさんが床から便箋を1枚拾い上げる。

「ああ、片付けなくてスミマセン。それ、友美さんからの手紙です」

「友美から?」

手紙に目線を落とすおじさん。


「順平君は、もう読んだかい?」

「いいえ」

できることなら、読みたくない。


「悪いけど、先に読んでいいかな?」

「はい、どうぞ…」


おじさんは拾った便箋をきれいにまとめ、ゆっくり、黙々と目を通し始める。


その間、オレは無意識にポケットの中の携帯を握り締めていた。