待ち受けカノジョ。

「…滝山くん?」

スエットパンツのケツポケットから、オレを呼ぶ声がする。

「奈緒」


すっかり忘れてた。

オレはもう、無意識に奈緒をポケットに入れるのがクセになっていたんだ。


「一体どうしたの!?」

奈緒はオレのことを良く心配してくれる。


でも…

今は、ほっといてほしい。

こんな顔、見られたくないし。


ごめん、奈緒。



ポケットから奈緒を出さないまま、

真っ暗な闇の中でもキラキラと光る水面を、いつまでもボーッと眺め続けた。







――何も言わない滝山くん。


何があったのかは分からないけど、さっき誰かに『泣いてんの?』って言われてた。


いつも陽気に振舞う滝山くんが、泣くなんて…


なんだか私まで悲しい気分になってきた。


いつか。

いつか、話してくれるだろう。

それまで私は何も訊かない。


今は…

だまって滝山くんに寄り添っていよう。


明日になったら、いつもの笑顔で笑っているように、願って。