「…」


「…」



…なんなんだ。この無言は。
隣に座るタクは視線を床に向けて、すーはーと浅い呼吸を繰り返す。




本当は梨桜って誰なのと問いたいけれど、この重苦しい空気の中そんな事聞けない…




「…お前、」


「…っ、なに?」



いきなり勢いよくこっちに振り向いたタクに、吃驚して変な声が出てしまった。
その表情は酷く、鋭い。
―それはまるで私を責めるような…



その視線に耐えられなくなって、今度は私が視線を床へと向ける。




「…なぁ、お前代わりって本気で思ってんのか?」



「…」



“思ってる”そう口を開こうとしたけど、それはできなかった。






タクが私の腕を引いたから。
吃驚したとかそんな事は感じなかった。だって…




「梨桜は…」



あまりにも小さな声だったから。




ただタクに抱きしめられたまま、耳を澄ます。
そうしないと、タクの声を聞き逃してしまいそうなくらいだから。
いつもの横柄な態度や口の悪いタクは、今はいない。







「梨桜は…颯人の……姉だ」



たったそれだけ。
その言葉を言っただけなのに、タクの声はひどく震えていた…