「何処に『帰る』って言うんですか『貴女』は」


カルテに対し、まるでそこに友梨がいるかの様な口調で、狩谷。


「『深山咲』はそんなに居心地が良いですか?それとも僕が知らない隠れ家が、まだあると言う事かな。ジョウノユウリさん、貴女は……」




しかしそこまで呟いて……狩谷の眉根が切なそうに歪んだ。


好奇心で光っていた瞳にも、僅かに陰りが見える。




けれど


「……けれど、それすら『他人事』か……」


……と、言って、冷めきったコーヒーを飲み干すと


「僕は医者として頼まれた仕事をするだけ、だな……」


と、続けて、カルテを見つめていた瞳を閉じた。


その、瞳の奥に、何故か彼女の父である空也の顔が浮かんだ。


芳情院と和音ではなくて、空也の顔が。


「……」


狩谷はふっと息を吐いて再び瞳に力を戻すと、カルテをしまい部屋を出て、仮眠室へと向かった------