「なのに友梨は……また奴に、惹かれている」


と、言って、芳情院は深く溜息をついた。


「惹かれている……どうしようもなく」


「……ああ。そうみてぇだな」


空也は、そう言うと、右手の中にあるジッポーを弄り始めた。


カチ、カチン、カチ、カチン……狭い喫煙室に、ジッポーの蓋を開け閉めする音が響く。




「時々、思うんですよ」


「あぁ?」


「僕が条野を殺してしまえば、友梨はもう……どこにも行かないのではないかって」


「は。オレも、友梨が条野と出逢わなければ……それはそれで、オマエと幸せにやってたのかもしれねぇな、なんてよ?思ってもみたけど……いきなり殺しちまうのは穏やかじゃねぇな」


苦笑しながら、空也。


「代表に穏やかじゃないと言われるとは思いませんでしたね」


「何でだよ、オレは平和主義だろーが。だから今もこうしてオマエと此処にいるんだろ」


時々扉の外から送られる守衛の視線をことごとく無視しながら、空也。


「普段は平和から一番遠い所にいそうですけどね」


「可愛くねぇな」


「ですから可愛くなくて結構ですよ」


「ほんと可愛くねぇ。で?条野殺してどーすんの?」


「どうしましょうね。友梨を鳥籠にでも閉じ込めましょうか?迷宮の奥で幾重にも鍵をかけて、僕の事しか見られないように……」