「……僕が、友梨を失いたいと思いますか?あの過去を持ち出した以上、代表はご存知の筈だ。どれだけ僕が彼女に恋焦がれ、条野への嫉妬から愛情が欲望へと形を変えた事なんて……」
「だから?」
「友梨を二度と、離したくない。これが僕の、本心です」
伏せていた瞼を開いて、空也へと視線を上げる芳情院。
その芳情院の態度を見て、空也は、ほんの少し唇を歪ませて。
「まあ、そうなるだろうな」
と、言って、苦笑った。
「……勝手な、意見だと思います。友梨に、僕とのマイナスの記憶がないのをいい事に」
「まあ、芳情にはうまいことだらけだよな」
「ええ、そうですね。あれだけ僕に背を向けて、条野を見つめていた友梨は今、僕のもので。条野は赤の他人だ。奴の辛そうな顔を見る度、友梨が今は自分のモノだと実感する」
「……」
「……返したくない、返せる、訳がない。僕の……オレの、友梨だ」
ほんの少しだけ、芳情院の声は震えていた。
空也は、静かに芳情院を見つめ、何も言わなかった。
芳情院が、もうそれに気付いている事を、空也は知っていた。
そして
ほんの少しの沈黙の後。
「なのに」


