記憶混濁*甘い痛み*2


「……友梨?何?」


優しく友梨の頬を撫でながら、和音。


もう片方の腕で、友梨を強く抱きしめる。


友梨は、ほんの少しだけ顔を上げて和音を見ると。


「私、今……ねえ、とてもとても幸せなの。でも……こんなに幸せだと、いつか……罰があたる気がする」


と、言って、一瞬だけ幸せそうな顔を曇らせた。


「……友梨?」




昔から。

友梨は、自分の幸せには臆病だ。

伝統を守る家に生まれ5才で後継者争いの波に巻き込まれ。

愛されてきたのに、愛され方を知らず。

優しくする度、いつも泣きそうな顔でオレを見つめていた。

幸せは。

受けるのではなく。

あたえ続けるもの。




幼い頃、後継者争いの恐怖から彼女が救いを求めたキリストは、彼女の中に安定をもたらすと共に、幸せになる事への恐怖心を植え付けた。


歪んだ、心に現れた救世主は。


芳情院に守られ、和音に愛されても。


消えることはなく在り続けている。




「友梨が受ける罰なら、オレが受ける」


「和音先輩?」


和音の言葉に、友梨は目を丸くして驚いた。


可愛い瞳に、ぱちくりと瞬き。