台詞を止められて、空也は苦笑い。芳情院は、そんな2人に口を挟める筈もなく黙ったままで俯いている。


「僕は、深山咲さんの治療に全力を注いでいます。確かに……幾つか試してみたい治療法はある。けれど今回の方法は、今までに何人もの患者を快方へ向かわせる事に成功した……」


「何人とかは興味がねぇ。他の奴が死のうが生きようが関係ねぇ。オレは友梨が幸せなら、記憶なんて戻らなくてもイイと思ってんだ。オレが心配してんのはな、友梨が子供と接する事によって、いてぇ記憶まで引き出しちまうんじゃねぇかって事なんだよ」


空也は羽織ったままの革のコートのポケットから、くしゃくしゃになった煙草を取り出した。


「禁煙です」


ボソッと、芳情院。


空也は嬉しそうに目を細めて。


「さすが芳情、落ち込んでても性格わりーい」


と、言って、茶化すように笑った。


そして、煙草を火をつけずに指にはさんだまま。


「なあ、センセイ……友梨が面倒みてるガキって、退院出来るようなヤツらばっかじゃ、ねぇんだろ?」


と、言った。


この、台詞で。


空也は少しだけ、辛そうな顔をした。


友梨以外どうでもイイとは思っても、やはり人の親。