「僕も楽しかった。またいつか話そう」
と言って去って行くマイクの後姿が見えなくなるまで彼女は見ていた。
情味
乾は授業の始まる三十分前にロビーの受付カウンターの前に座り、彼女に話しかける機会を待っていた。
「乾さん、私にご用かしら」
「はい、唐突ですが、平沼さんを花見に誘いたくて」
裕子を見る乾の目は懇願しているように彼女に映った。
「お花見だったら、柳井さんがクラスの人達で行くからと誘ってくれましたが」
彼女はあくまで彼の表情には気付かない振りを装いながら答えた。
「いえ、僕が誘いたいのは奈良です」
「奈良?」
「はい。平沼さんは絵画に興味があると言っていたので、ぜひ連れて行きたい美術館があるんです。奈良に」
彼は語気を強め、カウンター越しに身を乗り出そうとしていた。
「日本画家の上村松園という人を知っていますか」
「ええ、いつだったか忘れたけど、デパートで上村三代展を見る機会があって、その時、女性の髪の毛一本、一本が丁寧に描かれていたことに感動したわ」
裕子の答えに、乾の表情は一層明るさを増した。
「奈良の松柏美術館では下絵なども見ることが出来るんですよ。きっと平沼さんはより一層日本画に魅かれると、僕は思います。ぜひ奈良に行きましょうよ」
乾は階段を上がってくる人達の声を聞いてそれ以上言うことを止めた。
裕子が笑顔を作りながら返事に窮してい
ると、ドア―が開き、柳井と数人の生徒達が雑談をしながら入ってきた。
「おっ、色男、こんなに早く来て平沼さんにアタックしてんじゃないか」
「違いますよ。僕はただ-----」
「ただなんなの。お前、顔が真っ赤だぞ」
と言って去って行くマイクの後姿が見えなくなるまで彼女は見ていた。
情味
乾は授業の始まる三十分前にロビーの受付カウンターの前に座り、彼女に話しかける機会を待っていた。
「乾さん、私にご用かしら」
「はい、唐突ですが、平沼さんを花見に誘いたくて」
裕子を見る乾の目は懇願しているように彼女に映った。
「お花見だったら、柳井さんがクラスの人達で行くからと誘ってくれましたが」
彼女はあくまで彼の表情には気付かない振りを装いながら答えた。
「いえ、僕が誘いたいのは奈良です」
「奈良?」
「はい。平沼さんは絵画に興味があると言っていたので、ぜひ連れて行きたい美術館があるんです。奈良に」
彼は語気を強め、カウンター越しに身を乗り出そうとしていた。
「日本画家の上村松園という人を知っていますか」
「ええ、いつだったか忘れたけど、デパートで上村三代展を見る機会があって、その時、女性の髪の毛一本、一本が丁寧に描かれていたことに感動したわ」
裕子の答えに、乾の表情は一層明るさを増した。
「奈良の松柏美術館では下絵なども見ることが出来るんですよ。きっと平沼さんはより一層日本画に魅かれると、僕は思います。ぜひ奈良に行きましょうよ」
乾は階段を上がってくる人達の声を聞いてそれ以上言うことを止めた。
裕子が笑顔を作りながら返事に窮してい
ると、ドア―が開き、柳井と数人の生徒達が雑談をしながら入ってきた。
「おっ、色男、こんなに早く来て平沼さんにアタックしてんじゃないか」
「違いますよ。僕はただ-----」
「ただなんなの。お前、顔が真っ赤だぞ」
