人間が鬼となづけたその者が、すべて滅んでしまったのは、それから三月目のことでした。
それは、青年と病の治ったいいなづけとの婚礼の日のずっと前のことだったそうです。
愛しい人の側で暮らすために奥山を下りたあの日からかのは、月に一度の“その日”がきても決して人の血をいただこうとはしませんでした。
かのは、最後の眠りにつこうとする時、泣き伏すあの人に言いました。
「わたしが、奥山を下りたあの日、鬼の魂を持った者は、すべて滅んだのです、わたしは、あなたに出逢って、この三月の間、人間として生きてここにいることができました、たとえ、もっと長い間、滅びることがなかったとしても、わたしは、ずっと淋しかったでしょう…、髪をとくことも、紅をさすことも、愛しい人も、涙も知らずに…」
かのは眠りにつきました。
青年は、なぜか暖かな気持ちになり、かのの眠りの上にたくさんの涙を流しました。
そして、その唇にあの日と同じ真っ赤な紅をさしてやりました。

青年は、かのの想いに気づいていたのでしょうか…?