(イッシュ視点)


 この世界の子どもには言語よりも何よりも先に学ばなければならないものが存在する。

"tone ring"

色相環と呼ばれる、円状に配置された色の分布図である。赤、青、緑、光の三原色と呼ばれるこの三色を基準に、この世界は構成されている。

 いや、"構成されていた"と言った方が正しいかもしれない。

 この世界の人々の身体には"color cord"と呼ばれる色付きの、ハート型の痣が生まれつきついている。誰もが赤、青、緑のいずれかのカラーコードを所有していた。

 それも今となっては昔の話だ。

 本来なら赤、青、緑、その三色以外に発現するはずのないカラーコードを持つ者が現れ始めたのである。赤、青、緑、加えて黒と白。新たな色の発現は、この世界に混乱をもたらした。混乱は、やがて争いをも招いた。

 長い長い戦争の末、黒と白が手を取り合い、この世界を統一することが叶った。長い長い安息の日々の訪れの、始まりであった。

 しかし、それは十年前、終わりをむかえた。

通称"白狩り"

正式名称は"colorless討伐計画"。とある黒の者がこの世界の王に変わったその日から白の者たちは"colorless"という、なんとも不名誉な俗称を賜ったのだ。白の者たちは黒の者たちによって虐殺された。

 旧来、黒と白はトーンリングの中心に半分ずつ色づいた円の形で配置されていた。しかし今となっては白の存在は色相環を隅々まで見渡しても見つからない。円の中は真っ黒に塗りつぶされている。

 白の者たちは、この世界から存在そのものを抹消されてしまったのだ。


 俺は"白狩り"の数少ない生き残り、"白狩り"の被害者であり、そして、ある意味では加害者でもある。