「ここに、私を呼んでる人が?」

「あぁ、ここの七階だ」


 そう言って私を下すなり、月神君は手を差し出し、


「……触れても、問題無いか?」


 と、少し弱い声で問いかけてきた。

 今まで密着してたのに、今更って気がするけど。


「はい、問題ないですよ」


 もう、月神君を怖いだなんて気はない。だから私は、笑顔でその手を取っていた。


「案内、お願いしますね」


 そう言われるのが意外だったのか。

 自分から手を差し出したにも関わらず、月神君は少し驚いた表情をしていた。


「月神君? 行かないんですか?」

「――あ、あぁ」


 しばらくして、ようやく反応を示した月神君。それがなんだかおかしくて、私は笑みをこぼしていた。


「――――?」


 エレベーターに入った途端、不意に、違和感を覚えた。

 どこかで感じたことのあるような……不思議な感覚。嫌なものじゃないけど、なんだか妙に胸が騒ぐような、そんな気がした。





「――日向さん?」





 肩に触れられ、ようやく私は、エレベーターがもう止まっていることに気が付いた。


「す、すみません。なんだか、緊張してるみたいで」

「それならいいが……体が悪いなら、無理はするな」

「はい、大丈夫ですから」


 手を引かれながら進んで行くと、一番奥の部屋で止まり、月神君はインターホンを鳴らす。しばらくすると、中から男の人の声が聞こえてきた。それに月神君が答えると、ドアがゆっくりと開いた。