すべてが無となる…死という世界。

あたしは、そんなことなど考えたことがなかった。

例え…力を失っても、例え魔力がなくても…。

あたしは、あたしとして生きていけると思っていた。

力及ばずに、膝を落とした瞬間、あたしの胸を鋭いものが貫いた。

「ぐはっ」

血を吐くあたしの目に、玉座に座る…魔王が映る。

「お前のその力。誰が与えたものよ」

冷たい目をした魔王が、無表情で言った。

「うるさい!」

あたしは魔王の言葉を聞いた瞬間、大切なものを捨てた。

ブロンドの髪が、黒く変色し、力が増した。

魔王の前にいるというのに、周りにいる魔物達は、あたしに手を出さない。

「その姿も…また」

魔王は少しだけ…目を細めた。

「うるさい!」

怒りながらも、心の中でこれが最後だと思っていた。

「おいたわしいや」

魔物達の群れの一番前にいる…巨大な体躯をした魔物が、目を伏せた。

「お前は、何者だ?」

力を増していくあたしに、魔王が訊いた。

だから、あたしはこたえた。

「アルテミア・アートウッドだ!」

「…そうか」

魔王は表情を変えない。

しかし…それなのに…あたしは、悲しんでいると心の奥で感じた。

「ブ、ブロウ!」

最大の技を出す寸前…あたしの体を頭から足まで、雷鳴が貫いた。



そこからの意識はない。

いや、走馬灯だろうか…。

数々の記憶が頭に浮かぶ中に、まったく知らない世界が映る。

(そう言えば…お母様が言っていた)

この世界と別の世界があると…。

そこは、人間が…支配する世界だと。

(人間が支配する世界)

いつのまにか…あたしの周りに、見慣れない世界の映像が浮かぶ。