「…てめえも、わかっていただろ?あいつは、お前を愛してなかった。愛していたら…好きな人間を盾にするか?」

アルテミアの言葉に、キャロルは吠えた。

「言ったはずだ!それは、作戦だとな!」

「フン」

アルテミアは、鼻を鳴らした。

「作戦ねえ〜。だとしても、それを遂行する男など、あたしは願い下げだ」

「お、お前に!何がわかる!あたし達の何がわかる!」

キャロルは立ち上がろうとしたが、足がもつれて倒れた。

「お前は!あたいと彼に!種族が違うから、愛がないと思ったか!」

キャロルは這いながら、アルテミアに叫んだ。

「そんなことは思ったことはない。言ったはずだ。あんなことをするやつを信用しないだけだ」

「あ、あいつを愚弄するな!」

キャロルは叫んだ。

「…」

アルテミアはこれ以上何も言わず、ただ目を瞑ると、歩き出した。

(お母様)

瞼の裏に浮かぶ…白い鎧の戦士。

「絶対に、お前を殺してやる!」

キャロルの言葉を無視して歩き続けるアルテミアに、僕が声をかけた。

「アルテミア…」

「好きにしろ」

アルテミアが頷くと、僕に変わった。

「キャロルさん」

僕は足を止め、振り返った。

涙目で真っ赤に染まった瞳で、地面を這いながら見上げるキャロルに、僕は言った。

「あなたの悲しみ、怒りはわかります。だけど…」

僕は、キャロルを睨んだ。

「今度、戦いを挑んできたら、貴女を…撃ちます」

その言葉を口にしてはいけなかったかもしれないが、僕は口にした。

それは、彼女に教わったことだから。

僕は、本心までは口にしなかった。

(愛する人を傷付けたから、許さない)

キャロルの行動の思い。

今度は、恐らく…僕が返すかもしれない。

「彼女の背中からではなくて、前に出て…貴女を撃つ!」

僕はそう言ってから、しばし無言でキャロルを見つめた後、頭を下げると、背を向けて歩き出した。

工場を出るとすぐに、アルテミアに変わった。

少し恥ずかしく…少しやるせなく…とても切なかったから。


「フン」

アルテミアは胸元から、カードを抜くと、残高を確認した。

「しけてるが…久しぶりに飲みにいくか…。あのバーテン…あたしに会えずに、寂しそうだったからな」

そして、にやりと笑うと、繁華街に向けて歩き出した。

今回は…飲みに行くのを、僕は止めることをしなかった。