「お前また切ったの?」

水で手を濡らしているあたしを見てケンが言った。

「違うよ。これは事故。紙で切っちゃったの。」

「そっか、よかった。」

今開けたドアを閉めてケンがあたしに近づいてきた。

「で、何?彼女と待ち合わせしてんじゃないの?」

「メイは補習中。」

メイっていうのはケンの彼女で、ふわふわした可愛い女の子。

ケンと彼女は幼なじみで、中2の時から付き合っていて今4年目らしい。

「何?彼女がいない間につまみ食いしちゃおう的な?」

あたしが冗談っぽく言うと、ははっとケンが笑う。

「つまみ食いじゃねぇし。がっつり食べにきた。」

そう言って彼はあたしの濡れた手を掴み自分の方へ抱き寄せる。

出しっぱなしの水を止め、おでことおでこをくっつけて囁く。

「欲しいんだ、ミユ…。」

「…ひどい人…相変わらず。」

お互い自然と顔を傾け、唇が重なる。


水曜日の放課後、物理室。

それがあたしと彼の秘密の放課後だった。