赤い狼と黒い兎



怒りに震えるメンバーの中、あたしは平然としていた。

書かれてるのはあたしなんだけれど、本当のことを知ってる奴は誰1人居ないんだろう。

なのに、顔もわからない人間を憎むのは少し違うだろう。

もう少し事が運べば話は別、だがな……。



「どうするよ馨…」

『あー…?…まー放っときゃいーんじゃねー…?』



ソファーに寝転がり、春架にそう言った。



「いいのかよ、でたらめ書かれて」

『だって所詮でたらめじゃん。誰1人真実を知らな――…』



そこでハッと、閉じかけた目を開いた。

誰1人真実を知っている奴は、いない…?



『………』

「馨?」

「馨、どうした?」



いないわけねぇよ。“アイツ”は知ってる。

あたしがmoonを抜けたことも、何があったかも……。



『……琉樹、パソコン貸せ』

「へ?ああ、うん…」



頭の片隅にも無かったが、今思えばアイツがムショから出てもおかしくない月日だ。



『それと、パソコン1日借りるわ』

「え!?アタシの命を!?」

『預かるわ』

「……だ、大事に扱えよ…!」

『おう。じゃ、今日帰るわ』

「あ…」

『亜稀羅はいていいよ。青夜、車』

「ほーい」



亜稀羅に手を振り、あたしは青夜と一緒に音楽室を出た。