赤い狼と黒い兎



『……。』

「よし、帰るか」



肯定も否定もしていないのに、亜稀羅は微笑んであたしの頭を撫でた。

それを、誰かに見られているとも知らずに―――…








「……兄貴?」

『何、してんの…瑠宇…』



家に帰ると、真っ黒に髪を染めた瑠宇が台所にいた。



「え?何って、飯作ってんだけど?」

「……兄貴?」

「何でもっかい聞いたよ亜稀羅」



亜稀羅は信じられないという表情で瑠宇を見ていた。

瑠宇は瑠宇で苦笑い。



「…白髪染め?」

「ちげぇよ!」

『………。』



どこの誰かわからない。わからなくなる程、瑠宇は変身している。



『「どうした…?」』

「揃って言うな!…なんとなくだよ」

『なんとなく…?』

「…モテたいんだな!?」

「何でそーなる!?!?」



実は、と言った亜稀羅に瑠宇が鋭く突っ込む。



『……瑠宇』

「ん?」

『黒髪似合わん。やめろ』

「えぇ〜…、兄ちゃんショック〜」

『飯』

「切り替えはや」



カラカラと笑う亜稀羅に瑠宇は暫し苦笑い。



「…俺ね」



少し真剣に言う瑠宇にあたしと亜稀羅は顔を見合せ、また瑠宇を見た。



「今の仕事、正社員になった」

「おぉ…すげぇじゃん」

「おう。だからまぁ何?真面目を目指そうと?」

『した結果が、それ?』

「まぁ…」

『「ふぅん。ま、いんじゃない?」』

「そこまでハモる?」