「どうしたんだ?」


今言うしかないよ!


私の中のもう一人の私がそう叫ぶ。


「じっ…仁に話しがある。」


「ん?」


私が言いかけた時、


“チャラチャララ…”


タイミング悪く仁の携帯が鳴り響いた。


仁は私を気にしつつ、電話に出た。


「はい。」


あーぁ……また言い損ねた。


「……え?……あぁ、えっマジでぇ!?」


電話を握り締めながら、いつになく興奮気味の仁。


「おぉ!……おぉわかった!」


そう言って電話を切った次の瞬間――


「千秋!!」


なっ何!?


興奮覚めやまぬまま、私の両肩をガシッと掴んだ。


「決まったんだ!!」


「へ?」


「デビューが決まった!」


「デビュー……って。え!デビュー!?メジャーデビュー!?」


「あぁ!」


「うそ!すごいじゃん!」


私は勢い余って仁に抱き着いた。


本当に見た事がないくらい目を輝かせて喜んでいる。


仁が夢を掴んだ瞬間だった。


マイクロシティの新曲『幸福の扉』がレコード会社の耳に入り、地元ファンの根強い人気も後押しして今回ついにメジャーデビューが決まったらしい。


だけど急にふと、不安になった。


デビューしたら、きっともうあのマンションには住まなくなるかもしれない。


私の手の届かない人になるような気がする……。