「良かったら、どうぞ」
注文したカクテルと一緒に、小さなクリスタルのお皿をバーテンが差し出した。
その上には、赤や銀の包み紙でラッピングされた、ひとくちサイズのチョコレートが数個、乗っていた。
「バレンタインのサービスです」
「ありがとう」
楓はチョコレートをひとつ手に取ると、そっと中身を取り出し、口に運んだ。
肩が触れるくらいの距離に座る楓から、甘い香りが漂ってきた。
私はまっすぐに彼を見る。
キャンドルの火が揺れるたび、彼の長いまつ毛の影も、いっしょに揺れる。
そんなわずかな影の動きすら、見逃さない距離にいられる今を、幸せに感じた。



