「ん?」 「ごめんな、うるさい奴らで」 「ううん。楽しそうな人たちじゃない」 「……今日は、つけてないんだな」 「何が?」 「口紅」 「……あ、うん」 だって、似合わないって楓に言われたから。 そう言うと、楓は困ったようにはにかんで、私の髪をくしゃくしゃと撫でた。 「ねえ、朝子は? 今日は来ないの?」 私は乱れた髪に指を通しながら尋ねた。