地面に足をつけたのと同時に、冷たい風がスカートを揺らした。
『早紀ちゃん、降りた? どこか分かる?』
「……わかんない」
『何が見える?』
「月」
『そうじゃなくて』
私は周りを見回した。遠くの方にJRの駅の看板が見える。
「……たぶん、○○駅の近く」
わかった、すぐ迎えに行く。青年Aはそう言って電話を切った。
一時間ほど経って私の前に停まった車は、楓が乗っていたようなオジサンっぽいのじゃなく、いかにも若者らしい車だった。
バンッ! と大きな音を立てて、運転席から男が出てきた。
「ごめん早紀ちゃん。待った?」
「ううん」
「嘘だあ、一時間以上はかかったよ」
「そうだね」
でも、はい待ちました、という気分ではなかった。
だって私は別に、青年Aのことなんか、待ち焦がれない。



