帰り道、送っていくという楓の申し出を断り、私は一人でタクシーに乗った。 行き先は? とドライバーに聞かれ、なぜか答えることができず、財布から一万円札を取り出すと、これで行ける所まで、と言った。 「え、困りますよお客さん」 「いいから行って」 「そんなこと言われたって……」 「まさかあんた、人里離れた山の中まで行って私を降ろすわけじゃないでしょう?」 「そりゃそうですけど……」 ドライバーは聞こえないくらいの小ささで舌打ちすると、渋々といった感じで、アクセルを踏んだ。