「うん、元気だったよ」
「全然連絡とれないんだもん」
「ごめんね、ちょっと忙しかったんだ。……朝子はどう?」
「私?」
相変わらず陸上のトレーニングばっかだよな。と横から楓が言って、朝子が恥ずかしそうに笑った。
「悔しいけど、楓の言うとおり。私の生活なんて高校時代と変わってないのよ」
「そう……朝子らしいよ」
朝子は、今度はテレ臭さより嬉しさの方が勝った表情で、にこりと笑った。
「早紀はキレイになったね」
「そんなこと……」
「私さあ、ほんと早紀に会いたかったんだよ?」
「私もだよ。……朝子に会いたかった」
嘘をつくのに、これほど神経を使ったのなんか初めてだ。
私の微かな声の震え、語尾のかすれを、きっと朝子は気付かないだろう。だけど楓は――。
気づかれるわけには、いかない。私の内側に巣食うものを、今だけは楓に気付かれてはいけない。
朝子と向かい合ってワインを飲み、親友として笑っている、今だけは。



