「飯、ここでいい?」
そう言って楓は、海のそばに建つイタリアンレストランの前で車を止めた。
薄いイエローの漆喰の外壁。間接照明のまろやかな灯りが、窓から見える。
「雰囲気の良さそうなお店だね」
「うん。ワインの種類も多いし、けっこうお気に入りなんだ」
「楓って、お酒飲むの?」
「今日は車だから飲まないけどね」
私は潮風から隠れるように、楓に寄り添って、レストランの入り口へと歩いた。
「楓、なんか別人みたい」
「ん?」
「いつの間にか車を乗り回して、お酒まで覚えて。こんなおしゃれなお店にも来るようになったんだね」
ああ、この店は……、と楓が言った。
「朝子に薦められて、たまに来るようになったんだよ」



