「早紀、携帯の番号変えただろ?」
前を向いてハンドルを握ったまま、楓が言った。
「……なんで知ってるの?」
「こないだ電話したんだよ。そしたら機械の声が流れてさ、この番号は現在使われておりません、なんて言われたぞ?」
私は髪をかき上げて、曖昧に笑う。
「ごめんごめん。報告するの忘れてた」
「相変わらず適当だなあ」
「けどこうして私から電話したんだし、いいじゃん」
「まあな。もう少し連絡つかなかったら、お前の大嫌いな手紙でも送ってやろうかと思ったよ」
「勘弁してよ」
軽口を叩きながらも、胸の中に幸福感が広がっていくのがわかった。
楓が、私の嫌いなものを覚えてくれていた。
覚えてくれていた……。



