「驚いて損したぁ。驚かさないでよね。心臓に悪い」
「わりー、わりー。それはともかく、吉沢も起こしてくれないか? そしたらあの非常口の近くに集まって」

桧野はいつもと同じ明るい声を出して、去っていった。
わたしは膨らませた頬を元通りにして、ちょっと感心していた。
舞香もすごいが、桧野もすごい。この状況に陥っても笑っていられる精神力。

そんなことを考えながら、まだ寝ている舞香の体を揺らした。
舞香はううんと唸りながら、わたしを睨み付けてきた。
わたしの睡眠の邪魔をしないでと目が語っている。

「桧野に起こせって言われたんだって。もしかしたら大切なことかもしれないから、ねっ?」
「んもぉ……まだ夜中でしょぉ? 眠いよぅ……。くだらないことだったら桧野殺す」

わたしの必死の呼びかけに、渋々と起き上がる舞香。恐ろしいことを口にしながら。
わたしもまだ意識が朦朧としている。
体内時計はかなり狂ってしまっているのでアテにならないが、午前三時とみた。