「別になんでもないよ」

この頃昔のことがよく夢に出てきて、いつも魘されているのだ。
そんなことを察されないように見栄を張って言ってみるものの、舞香は不安そうな顔でこちらを見てくる。
わたしはそんな舞香にくすりと笑いながらやあねえ、とおばさん臭い台詞を吐いてみせる。

「そんなに心配そうな顔しないでってば! じゃあね、舞香。また明日!」

わたしは強制的に話を切り、不満そうな顔をする舞香に手を振って帰路を歩き始めた。

家に帰っても家族はいないけれど、代わりに笑顔で迎えてくれる叔母さんがいる。

信頼できる友達がいて、温かく迎えてくれる人がいて、わたしは今笑いながら毎日を過ごしている。
ああ、なんて幸せなんだろう。
寝てしまいそうにぬるい幸福に浸かっているようだ。

一度は生きることを諦めた。
もう幸せを感じられないだろうと考えた。

だけど今わたしは、溢れんばかりの幸せに浸かっているのだ。
不安定だけど、今にも崩れそうだけど、頑張って、この状況を保っている。

「……どうかこの幸せが、壊れませんように」

だからわたしは祈るだけ。
手を合わせて、神様に。

無力なわたしは、それだけしかできない。