薄々気付いていた。
ミヅキが自殺願望者だってことは。
手首の傷跡を見たときに、もしかしてと思っていたもの。

だけど、わたしが気付いていても状況は何も変わらない。
ミヅキの死への考え方は変わらない。

全てが過去のものへとなってしまって悔しくて。
だけどわたしは無力で。

耳を劈く高い悲鳴。
わたしは耳を塞いで、その悲鳴に負けないくらいの音量で叫んだ。

今なら伊藤さんの気持ちも分かる。
大切なものを失う。もうすぐ失う。それは決して覆せない事実。

こんなことなら仲良くなんてならなければよかった。
あんな幸せな時間を知らなければよかった。

ミヅキ、ひどいよ。
わたしをこんなにメロメロしておきながらも、勝手にいなくなっちゃうなんて。

いつしか悲鳴が止んでいる。
わたしは呆然と静まり返ったバラックを見据えて、ぽつりと呟いた。

「……戻ってきてよ。約束したじゃない」

分かっている。知っている。理解している。
だけど分かりたくない。知りたくも、理解したくもない。

ミヅキが死んだなんて事実、鵜呑みにできるわけない。

バラックの扉があいて、ストレッチャーに乗せられたミヅキが出てくる。
意思の宿らない瞳、だらりとぶら下がった両腕。
見るも無残な姿になってしまったミヅキに、わたしは問いかけた。