「……安藤、呼ばれてるぞ」

桧野が早く従わなくてはいけないということを察したのか、安藤を立たせ、背中を押した。
だが安藤は一瞬よろめいて、またしても手をついて倒れこんでしまった。

安藤の目は据わっていて、折角の綺麗な顔は台無しだった。
わたしはそんな安藤の目に怯えながら、「安藤行った方がいいよ」と小さく言ってみる。
だけど安藤がわたしの言葉を聞いているはずがなく、安藤は無表情で床を見つめていた。

わたしもこうなるのだろうか。
杉村に次はあなたですと言われたら、こうなってしまうのだろうか。
恐怖に耐えられなくなって、全身の力が抜けて、絶望的な笑みを浮かべるのだろうか。

そう思うと寒気がした。

「失礼します」

そのとき、二人のスーツの男が安藤の腕を掴んだ。
そして百八十はあろうだろう長身の安藤を軽そうに引き摺って実験室と称されたバラックに連れて行かれた。

「やぁ、やめろぉおお! たっ、助けてくれえええ」

安藤は涙目でそう叫んだ。
懇親の力を振り絞って。
今あるだけの力をすべて使って。

「やめろ! い、いやだああああ、あああああ、あ」