そんなとき、隣の方から明るい声が聞こえた。

「ねえ、手首疲れてこない? この紐、噛んだら切れそうだよ。ちょっと更沙ので試してみてもいい?」

振り返ると、舞香がわたしの紐を足で突いてそう言った。
こんな状況を確認していてもなお、舞香はまだ笑っていた。
本当に自分がどんな状況にあるのか分かっているのか、とわたしは呆れ気味に微笑み返した。
わたしは紐が歯なんかで切れるものなのかと半信半疑だったが、まあ損はしないだろうと思い、それじゃあお願いと言った。

そんなわたしと舞香の様子を見ていた先生が、急に顔を上げた。

「こうやって項垂れていても拉致があかない。吉沢のように、前向きに考えよう」

吉沢とは舞香のことだ。
舞香が前向きなのはいつものことだと思ったが、先生の言うとおりだった。
ここで悲しみに暮れていたって、ただの時間の無駄だ。

それからは、先生を含めた三年四組が初めて心を一つにして、どうしてこうなったか、あいつらは何者なのか、わたしたちは何をされるのか、などと会議をしていた。
今までに見たことがない真面目な顔をして、わたしたちは悩み悩んでいた。

そんなとき、手が急に軽くなった。
驚いて振り向くと、そこには嬉しそうに紐を咥える舞香がいた。

「え……うそ、本当に……?」

わたしは驚きの声をあげながら舞香から紐を受け取り、紐と舞香を交互に見た。
舞香はすごいでしょと言わんばかりに胸を張っている。