「いじめのことを先生に相談したのに相手にもしてくれなかった。母親は精神的にひどいことになっていて頼ることなんてできない。おまけに父親は死んだ。頼れる人がいなくなっても、君は真っ直ぐ生きた。ただ正しいと思った道を歩んだ」

杉村は手を殺菌し、ビニールの手袋を嵌めながら言った。

それは誰も知らない自分の秘密。
知られたくない過去。

どうして初めて言葉を交わすこいつが知っているのかと、わたしは目を白黒させた。

「間違った道を選んだわけではない。だけど君は六年生のときに傷を受け、その傷は簡単に治らなかった。そしてあるとき、母親が他界した。それも自殺。その出来事で、今まで保っていた君の中の何かが崩れた。いい子スイッチが切れた。今まで頑張ってきたものがどうでもよくなってきた」

当たりだった。
わたしの心情を見事言葉にしていた。

「荒れ狂った。君は凄まじい勢いで、豹変した。今までのストレスを吐き出すかのように」