「すげぇ幸せそうな顔してた」

ふと後ろから声をかけられた。
周りを見回せばもうみんな起きている。
自分一人の気分がしていたけれど、それは自分の思い込みだったのか。

「なんかいい夢でも見た?」

桧野はそうやって悪戯そうに笑うけれど、どことなくわざとらしかった。
別に無理して笑う必要はないのに。
そう思うけれど、言ってしまえば桧野は傷ついてしまうだろう。
だからそっと心の奥に閉まっておく。

「いい夢? すっごく最悪な夢よ。本当に胸くそ悪いわ」
「幸せそうだったのに? お前一体何見たんだよ」

これが全て妄想だったという夢。
そんなことを言ったら笑われてしまうだろう。

「すごく幸せで、だけど残酷な夢」

だからそうやって答えると、なぜだか桧野が悲しそうな顔をした。
だけど唇の端は持ち上がっていて。

「俺も見た。幸せで、だけど残酷な夢」

なんで笑えるんだろう。
ふと、そんなことを思った。