やめて。
二回も言わないで。
こんなの、信じたくない。
認めないんだから。

そう思い、拳を握る。
だけど隣で表情を失った舞香はゆっくりと立ち上がった。

「やだ、舞香、なんで行くの」

わたしは舞香の行動が理解できなくて、そんな間抜けな声を出してしまった。
すると舞香はこっちを向き直って、わたしに小さく告げた。

「これが現実なんだよ」

だけど舞香の足は見るに耐えないほど震えていた。
立つのがやっとのように思えた。

「お利口な子だね」

そんな舞香に杉村が微笑みかける。

「舞香っ、行っちゃ駄目! わたし、嫌だよ。そんなの!」

狼狽するわたしの肩に、舞香がそっと手を乗せた。
やっぱり舞香は、強いと思う。
わたしよりもしっかりとしていて冷静ですぐに物事を受け止められて。

「大丈夫だよ。心配しないで」

大丈夫なわけがない。
心配しないなんてできるわけない。

舞香だって分かってるはずだ。
名前を呼ばれたことは死を意味していると。