わたしは舞香の顔色を窺おうとしていると、急に肩が軽くなった。
舞香が顔をあげたのだ。

「舞香?」

何か喋るのだろうと思ったのだけど、舞香は一向に口を開かない。
不思議に思って名前を呼んでみる。

すると、今にも消え入りそうな小さな声が聞こえた。

「……せ」

それが舞香の声だというのは分かるのだが、何を言っているのか分からない。
どうしたのと先を促すと、聞き取れるほどの音量で舞香が再び呟いた。

「……殺せ」

まだ言うか。
少し呆れ気味に溜め息をつこうとしていたそのときだった。

わたしの体に衝撃が走った。

いきなりのことに驚き、状況を把握できない。
ただ段々と遠くなっていく、苦痛に歪む舞香の顔が脳裏に焼きついた。

状況を大体理解できたのは、後頭部に走る痛みに悶えているときだった。
どうやらわたしはあの華奢な腕二本に突き飛ばされ、頭を床に打ち付けてしまったようだ。
といってもそこまでひどく痛むわけではない。少ししたらおさまるだろう。