「嫌だ。わたしだって死ぬのは嫌だよ」

それまでわたしたちの会話が聞こえないかのように宙を見ていた舞香が、声をあげた。
すでに桧野は泣き終えていて、腫れた目を濡らしたタオルで冷やしていた。
タオルは一人一日一回与えられるのだ。

「ま、舞香?」
「早く家に帰りたい。読みかけの漫画があるんだよ。なけなしの五百円で買った奴がね。それに誕生日だってもうすぐなんだ。パソコン一式買ってもらえる約束したんだもん」

わたしのとぼけたような視線を無視して、ちょっとムッとしたような表情で不満を口にする。
ここに監禁される前と同じような口調だったので、いつのまに回復したんだと驚いてしまった。