北條さんはもう既に壊れていたのだ。
きっと感覚などは麻痺してしまい、人間としての自覚もなくなってしまっただろう。

わたしは二日前に見た北条さんの姿をぼんやりと思い出していた。
泣き叫び、嫌だと連呼している姿を。

彼女にとって、死だけが救いなのかもしれない。
もう何が何だか分からなくなった彼女にとって、生きていることはとても辛いことなのかもしれない。

わたしはスーツをまとった男に引き摺られてバラックの中に入る彼女を見て、そう思った。
その顔には無邪気な笑顔が浮かべられている。

そんな様子を繁々と眺め、北条さんがバラックの中に入るのを確認すると、杉村は体育館を出て行ってしまった。
わたしはほっと胸を撫で下ろし、放心しているような舞香の手を引き、体育館の隅の方に腰を下ろした。