「おやおや、そんな怖い顔しないでくださいよ」

桧野の言葉に杉村が笑みを浮かべる。
嫌な笑みだ。
まるで見下しているようで寒気がする。

「さて、今日の第一の犠牲者は――」

もう馴染んでしまった言葉。
ひどくおぞましい言葉だと知っているけれど、もうそれに反応する気力はない。
そしてそのおぞましい言葉を発しているのに関わらず、杉村は微笑んでいるという事実も気味悪い。

「――北條ミサトさん、あなたです」

杉村の指した方向には、かつて不良と恐れられた少女が倒れていた。
だけど杉村の言葉を聞くと同時に、勢いよく顔をあげ、杉村の方へ這って行ってしまった。

気持ち悪い光景だった。
もう立つ気力さえありませんとその場に倒れていた少女が、自分が今から死ぬ運命にあることを知り、嬉しそうに死の入り口へ這って行くのだ。

死は怖いと桧野がわたしだけではなくこの場にいる全員に教えてくれたのだが、彼女は聞いていなかったようだ。
いや、もう他人の話を聞くなどという力もなかったのかもしれない。