すると予想通り伊藤さんの隈のできた目が見開かれた。

「智也は幸せなんかじゃなかった……!」

すくっと立ち上がって、何かを吐くかのように伊藤さんが叫ぶ。

智也というのは確か安藤の名前。
そうだ。伊藤さんは安藤と付き合っていたんだ。だけど安藤は先生の次に殺されてしまって。
頭の中で色々な情報を整理しながら、理解していく。

するとわたしの返事も待たずに、またしても伊藤さんが言う。

「何も分からずに死んじゃった。別れの言葉さえも言えなかった。ずっと一緒にいようって、約束したのに……!」

わなわなと体を震わせて、目に涙をいっぱい溜めて、最後には力尽きたようにその場に跪いてしまった。
最後の言葉には伊藤さんの悲しさが痛いほど伝わってきた。

わたしもミヅキを失って、そうやって絶望した。
約束したのに死んでしまったミヅキを蔑んだり、寂しいとすすり泣いたり、この運命を恨んだりして。