「いけーっ!燃やし尽くしてしまえー!!」




今日は金曜日。
週末はどちらかの家で過ごすのが俺達の決まりになっていた。


接待の面倒な飲み会から解放され、
いつもより遅い時間に愛しの彼女のアパートに向かう。
合い鍵でドアを開けると、冒頭の一言。





―愛しの彼女は敵と戦っていた。


最後の敵。
そう、ラスボスと。




…まぁ早い話がゲームをしていた。




人気のRPGの最後だけあって、なかなか敵は手強いらしく、彼女は興奮気味。


俺が来ていることにも気付かない熱中ぶり。
少々寂しい。
けど、そんな彼女も愛しい。




…が、彼女の口がだんだん悪くなってきた。
それはちょっと嫌。



「コラコラ、幸(サチ)。怖いから。」



幸の後ろで、スーツを脱ぎながら声をかける。




「いやいや、てっちゃん。
コイツめちゃめちゃ強いの。本当に腹立つッッ!
あ、お帰り。お疲れ様。」

やっと俺を認識したらしい。

接待で正直、疲労困憊だったけど
幸の『お疲れ様』で元気になる。
かなり単純な俺。


思わずニヤケながら
「うん。ただいま。
ちゃんとご飯食べた?」
と聞くと、

画面から目を離すことなく
「食べたよ…あ、また回復しやがった!
てっちゃん食べて来たんだよね?」
と答える幸。


今日はまだ一度も目があってない…意地悪心が疼く。


「付き合いで食べてきたよ。モツ鍋。
うまかったー。」

本当は幸のご飯が一番おいしいし、
そんなにうまくなかったけど。
オレからのささやかな反抗。


「モツ鍋いいなー!
明日は鍋するか!
あ、ちょっ…!ムキーッ!」


―…反抗失敗。
まぁ夜は長いし、ゆっくりと過ごそうと心に決め、
にやける顔を見せないように
「お風呂借りるねー」
風呂場に向かった。