時計は4時を指し、私たちは夕飯前に「森の温泉」とやらに行くことにした。 そこはペンションから歩いていける距離にあるらしい。 私は母と並んで森の中を歩き始めた。 東京ではセミがやかましいくらいに泣き叫んでいたが、こちらのセミは情緒がある。 私たちを新たな世界へ誘い込むような声だ。 ある程度歩くとこの森には違和感のある綺麗な建物があらわれた。 私と母は顔を見合わし、小走りで温泉へ向かう。 額に浮かぶ汗はいつものベタベタではなくサラサラと地面に落ちていった。