宿は懐かしい匂いがする。 木の匂いだろうか、風の匂いだろうか。 どっちでもいいが、とにかく懐かしい。 母は終始、口を開けていた。 昼夜問わずごみごみとした都会で時間に追われ、日常をこなしている母にとってここは異次元だ。 時の流れが目で見えるほど時間がゆっくり流れる。 そんな母を見て、私は母をここに誘って良かったと心から思った。 グアムや、サイパンとかいかにもな常夏の楽園よりも、こんなに近くに異次元があることを母に教えたかった。 いつもありがとう。母さん。