無痛分娩の麻酔は、胸の下辺りから太もも辺りのみの感覚を取るので、当然意識はあるし分娩時も自分でいきんで赤ちゃんを産み出す。

陣痛だけを取り去るのがこの「硬膜外麻酔」の特徴で、お腹の張りもずっと感じることができる。

このお腹の張りが大切なポイントで、麻酔開始からしばらくはお腹の張りを感じるたびに手元にあるスイッチをぽちっと押す。

すると薬が流れてくるというわけだ。

麻酔は自分で押して入れるのかあ、へえ。

とにかく「へえ」の連発である。

促進剤を打って麻酔を開始したからってすぐに産まれるわけではない。

赤ちゃんが下に降りて子宮口が開くのを待たなければならない。

こればっかりは自然に待つしかないので、それまではこの病室のベッドの上でひたすら麻酔スイッチを「ぽちっ」である。

深夜0時に麻酔を開始した私はその晩、一睡もできなかった。

翌朝、9時過ぎに夫が病室に現れた時には昨晩からの水分不足で喉も顔もカラカラ状態であった。

そう、麻酔開始からは一切の飲食が禁止。

水も飲めなくなる。

最初に説明を受けた時はちょっとくらい食べ飲みできなくたって平気だろうと思っていたのだが、完全にナメていた。

水分を取れないのがこんなにキツイとは思わなかった。

時々、助産師さんが持ってきてくれた氷を口に含むのだが、びっくりするくらいあっという間に溶けてなくなる。

病室の隅に置いてあるテーブルの上の水が入ったペットボトルが、近くて遠い。

ゴクゴクと勢いよく水をがぶ飲みしている自分を何度も想像してしまう。

早く爽快になりたーい!

どこかで聞いたようなフレーズが何度も脳内で繰り返される。

人間は水分摂取が大事なことに改めて気づかされた。