特別なことをしてもらわなくてもいい。
ただ、愛してもらえるだけでいい。
体を抱きしめてもらうだけで、満たされる。
ぬくもりを与えてもらうだけで、心にあるたくさんの切り傷や刺し傷に、包帯を巻かれたような感じがするから……。
「リクに、思ったこと全部話してみる」
「がんばれ。メイ」
菜月の後押しのおかげで、メイは勇気が湧いた。
将来のことなど分からない。
今を生きるだけで精一杯だ。
だけど、こうして今を大切にすることが、未来につながるのだと思う。
自分の心に背かない選択をしていけば、自分らしい道が築ける。
それが良いか悪いかなんて、他人が決めることではない。
幸せを目指す先に、妥協はいらない。
メイは、自分の心と初めてちゃんと向き合った気がした。
今まで「選ばされた人生」を送っている気がしていた。
だけど今日、この瞬間は、『自分がつかんだ人生』を生きているのだと思える。
星崎家の養子になると決めたのは自分だ。
『自分で選べる喜び』は、はかり知れない。
人生は選択の連続だということは薄々気付いていたが、それゆえに間違った答えを選んでしまうのがいつも怖かった。
でも、それもまた人生。
正解なんてない。
メイは、菜月にそう言われた気がした。


